高校生活が始まって、まだ数週間しか経っていないある日のことだった。私はいつものように友達と一緒に昼休みを過ごしていた。その日は少し肌寒く、校庭には少し強い風が吹いていた。何気なく教室の窓から外を眺めていると、隣のクラスの男子が数人、校庭の隅で話をしているのが見えた。
その中の一人が目に留まった。彼は、少し長めの髪が風になびき、くすんだブルーのシャツを着ていた。顔ははっきり見えなかったが、その佇まいに心を奪われた。まるで時間が止まったかのように、彼の姿が目に焼きついた。私の胸が突然ドキドキし始め、頬が熱くなるのを感じた。
「誰だろう…?」
思わず、独り言を呟いてしまった。友達が不思議そうに私を見たけれど、私は何も言わずにその男子を見つめ続けた。
それからというもの、私は彼の姿を探すようになった。教室の廊下ですれ違ったり、昼休みに遠くから見かけたりするたびに、心臓が跳ねるようだった。でも、声をかける勇気なんてなかった。彼が私のことを気にしているかどうかも分からなかったし、ただの通りすがりの女子生徒に過ぎないのかもしれない。
しかし、どうしても彼のことが気になって仕方がなかった。友達にそれとなく話してみたところ、彼の名前は「拓海」と言うらしいと教えてもらった。名前を知ると、ますます彼が身近に感じられた。
ある日、放課後の部活が終わった後、私は偶然、校舎の裏で拓海と鉢合わせた。彼も部活が終わったばかりで、汗が光る額をタオルで拭いていた。
「あ…、こんにちは」
緊張しながら声をかけると、彼は驚いた顔をしてこちらを見た。でも、その驚きはすぐに優しい笑顔に変わった。
「こんにちは。君、いつもここを通るの?」
「う、うん。部活の帰り道で…」
私の心臓は今にも破裂しそうだった。拓海とこんなに近くで話せるなんて、夢のようだった。
「そっか。僕も今日からここ通るようにしようかな。君にまた会えたら嬉しいし」
その言葉に、私は顔が真っ赤になるのを感じた。でも、嬉しくて、どうしても笑みを抑えられなかった。
その日から、私の放課後はさらに楽しみになった。拓海に会えるかもしれない、そんな期待で胸がいっぱいだった。
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