「ここは…一体どこなの?」
暗い空が広がる荒野に、私は一人立ち尽くしていた。砂埃が舞い上がり、目の前には終わりの見えない乾いた大地が広がっている。日差しは強いのに、どこか寒々しい風が肌を撫でていく。
「信じられない…さっきまで教室にいたはずなのに」
つい数分前まで、生徒たちに「さぁ、今日はここまで」と声をかけていた。けれど、教壇から顔を上げたとき、教室の光景がまるで塗りつぶされるかのように消えて、この荒野に立っていた。そんな馬鹿げたことが、現実に起こるなんて。
「皆、大丈夫かしら…?」不安な気持ちを押し殺して、周りを見渡した。
「先生!」声が聞こえた。振り返ると、数人の生徒たちがこちらに駆け寄ってくる。教え子たちの顔には恐怖が浮かんでいた。
「…奈々、光、玲央、あなたたちも一緒なのね」私はホッとしつつも、不安が頭をよぎる。他の生徒たちはどうなったのだろうか。
「先生、ここ、どこなんですか?学校の外に出たのに…こんな場所、見たことない…」奈々が震える声で聞いてきた。
「わからないわ、奈々。でも、とにかく冷静になりましょう」
周りに生徒たちが集まってくる。皆、怯えきっているのが分かる。私は教師として、彼らを安心させなければならない。自分の恐怖を隠し、優しく微笑む。
「皆、今はどうにかして無事に戻る方法を見つけましょう。パニックになると良いことは何もないわ」
そう言いながらも、私は自分自身が震え出しそうになるのを感じた。この世界がどれだけ危険で、どれほど厳しい環境なのか、まだ何もわからない。それでも、子どもたちの前では強くあらねばならないと、心の奥底で自分を奮い立たせた。
「先生、どうして私たちがこんなところに来ちゃったんですか…?」玲央がぽつりと呟く。その瞳には、誰に向けたわけでもない怒りと絶望が浮かんでいるように見えた。
「…ごめんね、玲央。先生にもわからない。でも、ここでどうにか生き抜くしかないの。先生が、必ず守るから」
私は言葉に力を込めた。彼らを守ることが、今の私の使命だと信じて。
***
日が暮れると、急激に冷たい風が吹き荒れ始めた。乾いた空気が肌を刺すようで、吐く息が白くなっていく。生徒たちは皆、震えながら砂地に腰を下ろしていた。
「先生、何か食べるもの…ありませんか?」光が、申し訳なさそうに聞いてきた。
私は彼の肩をそっと撫で、微笑みかける。「大丈夫よ、光。何か方法を見つけるから、心配しないで」
でも、現実は厳しい。あたりを見渡しても、食べられそうなものは何一つ見つからない。かつての文明の痕跡すら感じられないこの世界に、私たちはどうやって生き抜けばいいのか。
「先生…これ、本当に現実なんでしょうか?」奈々が、ぽつりと呟いた。
「そうね…夢であってほしいわ。でも、ここにいる以上、現実だと思って行動するしかないの」
自分で言った言葉が、心に重くのしかかる。この状況で子どもたちを励まし、生き抜かせることができるのか、全てが不確かだった。
「でもね、奈々。どんなに絶望的に見える状況でも、希望を持っていれば、必ず道は開けると信じているわ」
私の言葉に、生徒たちが小さくうなずいた。小さな希望の光でも、今はそれを信じるしかなかった。
***
夜が深まり、私たちは丸くなって冷気に耐えていた。その時、遠くで小さな光が揺れているのに気づいた。
「…あれは、なんだろう?」
「先生、誰かがいるかもしれません!」玲央が声をあげた。
私たちはそっと近づき、その光の正体を確かめようとした。しかし、光が近づくと同時に、何か異様な気配が私たちに迫ってくるのを感じた。
「…静かに。声を出さないで」
心臓が高鳴り、息が詰まるような緊張が体を支配した。光の中には、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる人影があった。荒野の中で立ち尽くすその影は、どこか人間離れした異様な雰囲気を放っていた。
「先生…あれ、なんか変です…」
奈々の小さな声に、私も恐怖が押し寄せてきた。影は徐々に近づき、その目がこちらを見据えているのがわかった。その目は、冷たく、まるで生気のない人形のように光っていた。
「皆、離れて…!あれは、近づいちゃダメ」
私は子どもたちを背にかばい、影と対峙した。ここで何が起ころうとも、彼らを守り抜くと心に誓った瞬間だった。
「先生…怖いよ」光が、私の手をしっかりと握ってきた。その小さな手に、私も生きるための勇気をもらったような気がした。
「大丈夫よ、私たちは一緒よ。絶対に生きて、ここから脱出する方法を見つけよう」
その言葉は、彼らを励ますと同時に、私自身への決意でもあった。この過酷な世界で、私は彼らを守り抜く。そして、希望の光を見つけ出すと心に誓いながら、再び暗い夜空を見上げた。
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