「お疲れ様、今日も頑張ったね。」
バイト終わりのカフェ。夜の店内は静かで、少し寂しいくらいだ。私は制服のエプロンを外しながら、隣で同じように片付けをしている彼に声をかけた。
「うん、お疲れ。でも、なんか今日は長く感じたなぁ。」
彼が少し笑って答える。黒髪をくしゃくしゃとかきあげる仕草が、なんだか格好良く見えて、私は思わず目をそらしてしまう。まだ一緒にバイトを始めて二ヶ月くらいしか経っていないけど、いつの間にか彼のことをよく目で追ってしまっている自分に気づいていた。
「でも、君がいるとあっという間に感じるよ。」
「えっ?」
彼の言葉に、私は一瞬戸惑った。冗談なのか、本気なのか、その表情からは全く読み取れない。けれど、その一言が妙に心に響いたのだ。
「いや、なんていうかさ、君っていつもテキパキしてるし、声かけてくれるからさ。なんか、働きやすいんだよね。」
彼は少し照れくさそうに笑って言う。その言葉を聞いて、私の頬がほんのり熱くなったのを感じた。
「ありがとう…でも、私、そんな大したことしてないよ。」
「いや、してるって。例えばさ、昨日も忙しい時間帯にさっと指示出してくれたろ? 俺、あれで助かったんだよ。」
そう言って彼は、私の方をじっと見つめる。そのまっすぐな視線に、私は思わず目を逸らしてしまった。
「…それは、ただ仕事だから。」
「それでも、俺には助かってるってことさ。感謝してるよ。」
「そっか…」
心臓がドキドキしている。彼とこうやって少しだけ話すだけで、こんなにも自分が意識しているんだと気づく。けれど、それを彼に悟られないように、私は平静を装った。
「なあ、君はさ、バイト辞めるつもりとかないよね?」
突然、彼がそんなことを聞いてきた。
「え? 辞めるつもりなんてないよ。どうして?」
「いや、なんか、最近バイト辞める人多いじゃん? だから、君も辞めたら嫌だなって思ってさ。」
彼は少し焦ったような顔で言い訳をする。それが可愛らしくて、思わず笑ってしまった。
「私は辞めないよ。ここ、好きだし。何より、一緒に働いてる人たちがいい人ばかりだから。」
その言葉に、彼はホッとしたように微笑んだ。
「そっか、よかった。俺もさ、君と一緒に働いてるのが楽しいんだよね。」
その一言に、私の胸がまた高鳴る。まるで、彼の言葉が私の心を揺さぶるかのように、どんどん惹かれていく自分がいた。
「君も、楽しい?」
彼が少し不安そうに問いかける。その目は、まるで私の答えを心から待ち望んでいるかのようだった。
「うん…楽しいよ。君と一緒にいると、自然に笑顔になれるんだ。」
「本当?」
彼の目が一瞬だけ驚いたように見開かれ、すぐに優しい笑顔に変わった。
「よかった。俺、君といると…なんか特別な感じがするんだよな。まだバイト始めたばっかりなのに、もう君がいないと寂しいって思っちゃうんだ。」
その言葉に、私は一瞬息を飲んだ。そして、心の中で何かが弾ける音がした。これが恋なのだと、ようやく気づいた。
「私も…同じだよ。」
そう言うと、彼の表情が少し柔らかくなった。そして、ゆっくりと私の方に歩み寄る。
「俺、もっと君と話したいんだ。もっと、いろんなことを知りたい。だからさ…」
「…うん。」
私の返事を待たずに、彼は軽く笑った。そして、夜のカフェの静けさの中で、私たちはお互いの気持ちを確認し合うように、そっと手を取り合った。
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その日から、私たちの関係は少しずつ変わり始めた。ただのバイト仲間ではなく、少し特別な存在へと。気づけば、彼と過ごす時間が何よりも大切なものになっていた。恋に落ちるまでのアルバイト、その一歩が踏み出された瞬間だった。
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