朝9時、オフィスに入ると、いつもと変わらない慌ただしさが広がっていた。コピー機が唸り、電話のベルが鳴り響き、デスクの周りには資料の山。私は自分のデスクに座り、深く息を吸い込んだ。
「今日も忙しくなりそうだな…」
そんな私の視線の先にいたのは、営業部のエース・藤井拓真。彼の背筋はいつもピンと伸び、鋭い眼差しで画面に集中している。その姿はまさにプロフェッショナルで、同僚からの信頼も厚い。だけど、私にとって彼はそれだけではない。
**「おはよう、藤井さん!」**
いつも通り元気に挨拶すると、彼は一瞬だけこちらを見て、軽く微笑んだ。
**「おはよう、桜井」**
短くて素っ気ない返事。でも、その笑顔を見るたびに、胸が少し高鳴る。誰も知らないけど、私は密かに彼に恋心を抱いている。オフィス内の戦場とも言えるこの場所で、私だけが知る「恋の戦線」が広がっているのだ。
---
昼休み、同僚たちとランチを取っていると、話題はいつも藤井さんのことになる。彼は見た目もよく、仕事もできるため、社内の女性社員から絶大な人気を誇っている。
**「桜井、藤井さんってさ、やっぱりかっこいいよね?」**
隣の席に座る中村さんが、ニヤニヤしながら言った。私は動揺を隠しつつ、笑顔で答えた。
**「そ、そうだね。仕事もすごくできるし、尊敬してるよ。」**
その瞬間、心の中でライバル意識が湧き上がる。他の女性たちと同じように、私も藤井さんに夢中だなんて、誰にも知られたくない。けれど、この「オフィスラブ戦線」において、私は一歩も引かない覚悟でいた。
---
午後、ついに戦線が動く時が来た。
営業会議が終わった後、資料をまとめていた私は、不意に藤井さんに声をかけられた。
**「桜井、今夜、時間あるか?」**
突然の質問に、心臓が跳ね上がる。もしかして、これは…!?
**「あ、はい、特に予定はありませんけど…どうしたんですか?」**
必死に冷静を装って返事をすると、藤井さんは少し考え込むようにしてから、静かに言った。
**「君に手伝ってもらいたいことがあってね、どうだろう?」**
それは完全に予想外の展開だったが、私は彼に頼まれたことに舞い上がってしまい、即答してしまった。
**「もちろん!何でもお手伝いします!」**
すると、藤井さんの表情が柔らかくなり、またあの優しい笑顔を見せてくれた。
**「助かるよ、ありがとう。じゃあ、仕事が終わったら少し付き合ってくれる?」**
---
その夜、残業の後、私たちは近くのカフェに座っていた。彼が資料のチェックを頼んできたのだが、正直、それよりもこの二人だけの時間が嬉しくて仕方なかった。
**「君の仕事は本当に丁寧だな。いつも感心してるよ」**
彼がそう言ってくれた瞬間、胸が温かくなった。これまで戦い抜いてきたオフィスラブ戦線で、ついに小さな勝利を感じた瞬間だった。
**「ありがとうございます…でも、まだまだ未熟ですから」**
照れながら答える私を見て、藤井さんは小さく笑った。
**「いや、君は十分だ。これからも頼りにしてるよ。」**
その言葉が、私の心に深く刻まれた。もしかしたら、この戦線は少しずつ、私の勝ちに傾いているかもしれない…。
しかし、このオフィスラブ戦線が本当に終わるのは、もっと先のことかもしれない。
コメント
コメントを投稿