「オフィスの恋、隠せません!」
静かなオフィスに、カチカチとキーボードの打鍵音が響く。窓から差し込む午後の日差しが、白いデスクに影を落としている。私はパソコンの画面を見つめながら、ため息をついた。
「また、やらかした……」
目の前にあるメールの送信ボタンをクリックする手が、一瞬止まる。送るべき報告書の内容は完璧だ。しかし、その送信先の名前を見た途端、心臓がドクンと大きく跳ね上がった。
「…篠崎課長…」
彼の名前を呟くだけで、胸の奥が熱くなる。仕事に厳しく、時には冷たいと感じることもあるけど、その鋭い眼差しや誠実な仕事ぶりに、私はいつの間にか惹かれてしまっていた。
そんな彼との秘密の関係。オフィスで会話する時は、普通の上司と部下を装っている。けれど、二人きりになった時は――
突然、背後から声がした。
「佐々木、今少し時間あるか?」
篠崎課長の声だ。反射的に肩をすくめ、振り返った。彼はいつも通りの真剣な表情で、私のデスクの前に立っている。心臓の鼓動が早まるのを感じながら、私は笑顔を作った。
「もちろんです、課長。何でしょうか?」
彼はデスクに手をつき、少し身を乗り出してきた。その距離感に、私の顔がほんのり赤くなるのを感じる。誰も見ていないよね、と心の中で確認しつつ、彼の目を見つめる。
「あの、今日の夜…少し時間があるなら、例の件、話さないか?」
その言葉を聞いた瞬間、ドキリとする。例の件。それは、仕事の話ではなく、二人の関係のこと。彼と私がどうすべきか、まだ答えを出せていない。
「わかりました…でも、ここじゃ…」
私は小さく答えた。彼もわかっているようで、軽く頷くと、顔を少し緩めて微笑んだ。
「じゃあ、また後で。オフィスではいつも通りだ、な?」
その言葉に、私は苦笑する。彼はいつも冷静だ。それに比べて私は、毎回隠しきれない感情をどうにか抑えるのに精一杯だ。
その夜、会社の近くのカフェで彼と向き合う。周りには他の客が数人いるけど、私たちのことに関心はない。二人きりの空間が、逆に妙な緊張感を生み出していた。
「…佐々木」
彼の低い声が、静かに私の名前を呼ぶ。
「俺たち、どうするんだ?」
その問いに、私は答えを出せず、ただ彼の目を見つめ返す。隠し続けることに限界がきているのは、私だけじゃない。だけど、社内恋愛はリスクが高い。それでも――
「私は、課長と一緒にいたいです」
その言葉を口にした瞬間、彼の表情が少し和らいだ。そして、彼もまた、静かに告げた。
「俺もだ。お前が大事だ」
二人の間にあった壁が、音もなく崩れ落ちた気がした。
もう、隠し続ける必要はないのかもしれない。
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